「マンガサミット」は1996年、「東アジアマンガサミット」として産声をあげました。 このページの文章は、マンガサミット創設にあたり示された起草文の抜粋です。 『共に支え合う喜び、共に発展していく喜び、同じ文化によって未来を作り上げていく喜び。』 その感動と情熱こそが、時を経た現在においても、マンガサミットを形作っているのです。
『マンガは世界の共通語』
1996年 第1回東アジアMANGAサミット より
1940年後半、1人の青年の手によって、日本に新しい文化が芽生えようとしていた。 おそらく、日本中の誰ひとりとして、それがやがて文化として育っていくとは思わなかったに違いない。 青年の名は手塚治虫。 彼は、それまで「漫画」というものが持っていたイメージをことごとく打ち破いていった。 「漫画」とは、世の中の有り様を面白おかしくデフォルメされた絵で見せるもの、そう信じられていた時代だった。 一コマ漫画は絵の力で世の中を風刺し、四コマ漫画はセンスで見る人を笑わせ、そして、ストーリー漫画は、子供たちの興味と冒険心をそそりながら、楽しく読ませる「ひとときの娯楽」だった。 コマ割リ・構図・セリフの配置・人物の動き、それらは平坦な舞台劇のようだった。 手塚の作品は違った。 大小様々なコマどりがあり、ロングショットとクローズアップを効果的に使い、漫画の画面を、それまでの「舞台劇」から「映画」へと変えた。 しかも、手塚の描く人物たちは、悩み苦しむのだ。 それまでの主人公たちも、考えることはした、だが苦しむ内面の姿まではみせなかったのだ。 そんなものは「子供相手の娯楽」に必要でなかったからだ。 手塚は何もかも描いた。 テーマも人物設定も、ありとあらゆるものを描き続けた。 この世のすべてが、彼の手によってドラマになった。 メルヘン、SF、ファンタジー、動物もの、歴史もの、学園もの、剣劇もの、等などコメディから悲劇まで、漫画で描けないものはないと信じきって描き続けた。 手塚の作品に触れた読者たちは、その表現に驚き、あこがれ、魅せられて、漫画の世界に飛び込んできた。 読者であることだけに満足できず、自らの世界観を、手塚スタイルの漫画で表現したいと願ったのだ。 そういう彼らの作品に触れた読者は、また魅せられて漫画の世界へ入りたいと願う。 こうして手塚治虫を出発点とした「日本型ストーリー漫画」の世界は、ピラミッド状に裾野が広がっていった。 なぜここまで手塚スタイルの漫画が若い読者の心を引きつけたのか?
それは「作品」だったからだ。 日本のストーリー漫画は、基本的には、ストーリーも脚本・コマ割り・構図・セリフ・絵も、ある一人の個人が自らの創作意欲と情熱で創りあげる「作品」として成長し続けた。 一人ですべてを表現できる世界。 新しい表現手段であるこの世界に、多くの人々が魅せられて加わっていったのは、こういう理由による。 アメリカンコミックと比べて、あまりにも違いすぎるその世界の成り立ちゆえに、長年日本のストーリー漫画は、日本人だけにしか受け入れられないものと思われていた。 しかし…。 二十数年前、ちらほらと「アジア各国で、日本のストーリー漫画が読まれているらしい」と聞いた。 海賊版が各国で出まわっていたのだ。 著作権についてあれこれいう前に、「日本のストーリー漫画が読まれている」という驚きの方が先行した。 しかも、日本の読者に受ける作品は、そのままかの地で子供たちの人気を集めている。 驚きが喜びに変わる。 「同じ文化を共有できる!」と…。 アジア各国と日本の間には、長い歴史がある。 中国、朝鮮半島から伝えられた文化により、日本は国家として成長した。 そして今世紀、力による日本文化の押し付けがあり、日本とアジア各国との間に、不幸な関係を生じさせた。 「マンガ」は、誰が押し付けたのでもなく、自然発生的に受け入れられ、育ってきた「文化」なのだ。 日本とアジアの関係において、史上初めて、自然に定着した日本文化だ。
そして私達は今、「マンガ」という共通語により結ばれつつあるのだ。 今やヨーロッパでも、そして、あのアメリカンコミックが主流であったアメリカでさえも、この「日本式マンガ」が受け入れられ、人々を引きつけ、「日本式スタイルで、個人の創作として描く」マンガ家が育ってきている。 今や、「マンガ」は世界の共通語となった。 「マンガ」という形式そのものが、共通語になり共有文化になった。 この喜びを、多くの人に知ってもらいたい。 各国で芽生え、定着していった「マンガ」に関わる人々と、喜びを分かち合いたい。 そして共に手をたずさえて、より確かな共通語にしたい。 日本のマンガが早くから受け入れられてきた東アジア各国と、共に手をたずさえて、この共通文化のさらなる発展を支えあいたい。 その発想が、「東アジアMANGAサミット」である。 文化が受け入れられた喜び、共に支えあう喜び、共に発展していく喜び、同じ文化によって未来を創り上げていく喜び。 これらの感動と情熱を、一人でも多くの人に知ってもらい、分かち合ってもらいたい、それが「東アジアMANGAサミット」の願いである。
東アジアMANGAサミット実行委員会
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